深い愛を味わう 修道院のお菓子
昨年、市場で料理の本を大量に仕入れたとき、上の写真の、大原麗子が表紙を飾る「婦人画報1974年12月号」が落札した料理本の束の中に入っていました。
新品のようにきれいな状態ですが、背表紙に所有者が保管用に貼ったと思われるシールがあり、剥がせないのでお店には置かず、自分の資料としてとっておくことにしました。料理本の束の中に入っていただけのことはあり、洋菓子の特集号でした。お菓子を食べること、お菓子作りが好きな人には大満足の内容だと思います。
まず、〝私の好きなケーキ10種〟と題して、各界著名人がそれぞれお気に入りのケーキを写真付で紹介しています。
帝国ホテル内にある「ガルガンチュワ」のレモンパイが好物なデザイナーの鳥居ユキ。パイひとつにレモン1/5と良質のバターをたっぷり使うのだそうです。いまでも作られているのかはわかりません。私も子供の頃、友人とレモンメレンゲパイを作ったことがあります。大失敗に終わりましたが・・・
他にも、評論家・古波蔵保好の好物「酒の入ったババロア」、クニエダヤスエさんの母の味「バターケーキ」。戦後、闇で入手した玉子・バター・砂糖・メリケン粉に、乾いた実の果物を刻んで洋酒漬けにしたものを混ぜて焼き上げたお母さんの手作りのバターケーキが忘れられないそうです。
そして、この洋菓子特集の中で、とくに充実しているのが全国各地にある「修道院のお菓子」の記事です。
当時、修道院で作られるお菓子は、あまりの美味しさに大人気となり、〝幻のお菓子〟と言われるほど、一般にはなかなか回ってこなかったそうです。読んでいると、シスターたちが毎日誠実に心を込めてお菓子を作り上げている様子が伝わってくるのです。美味しいはずです。
そもそも、修道院のお菓子の存在が知れ渡るようになったキッカケは、新宿・京王デパートの常設コーナーに置かれたことによるもので、1960年代後半には20余の修道院が参加していたそうです。
北海道トラピスト修道院のクッキー、愛知県ドミニカン聖ジョセフ修道院のベルギー菓子、岐阜県十字架のイエズス修道女会のキャラメルなど。こうした催事がいまでもあったらいいのに、と思います。
洋菓子特集号の本書、大充実の内容です。
外国人シェフが教えてくれる、チョコレートたっぷりオーストリアのザッハトルテ、くるみとハチミツを入れてヌガー風にしたものをパイ皮で包んだスイスのケーキ「タルト・グリズン」、ハンガリーのケーキの作り方なども掲載されています。
絵本や童話、推理小説にお菓子が登場する本をいろいろ紹介している記事もあり、古本屋としてとても参考になりました。
今年、長い歴史を閉じた神保町の「柏水堂」も載っていますが、写真を見る限り、つい最近のものかと思うほどお店は全く変わっていません。東京・神戸・京都と、たくさんの洋菓子店がそれぞれのお店のお菓子とともに紹介され、あれもこれもと食べたくなってしまいます。