雑誌「anan アンアン」の着物特集

数年前、それは、神保町の古書街で起こった不思議な出来事です。

20代後半頃に実家を新築した際、ダンボール箱ごと行方不明になってしまった雑誌や本があるのですが、そうして無くしてしまった本や雑誌をいまでも少しづつ見つけて買い集めています。
その日も、そんな風に神保町の古書店にふらりと入ったときのことでした。成人式の日に着るための着物選びの参考のために当時購入した雑誌「anan アンアン」の着物特集の号を探していました。

そのお店は雑誌専門店なので、いろいろな雑誌のバックナンバーがずらりと棚に収められており、アンアンだけでも一体どれぐらいあるのだろうかと棚を見上げて途方に暮れました。どうしたらいいかと考えた末、まずは、心も頭の中もクリア(無)にして、導かれるままに右手を本棚に差し出してみました。そうして吸い込まれるようにぎっしりつまったアンアンの中から一冊抜き出してみました。それはまさしく私が探していたアンアンの着物特集でした。

IMG_2256購入当時、一目惚れしてしまった一枚の着物姿の女性の写真。しっとりとした藤色のこんな着物を成人式の日に着てみたい。そう思って、呉服店で着物を選ぶ際にとても参考になりました。
ただの偶然なのかもしれませんが、これは実話であり、無事にあのときのアンアンと再会を果たしたのでした。
高校生の頃に大好きだった占いの雑誌「My Birthday」と「Lemon」もまた見つけて読み返してみたいと思っています。

長崎の味

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夜の長崎の街

本日のブログのタイトルは、保育社のカラーブックス風にしました。
今年の3月、古書通信の取材のために長崎に行くのと、佐賀に本家のある古賀家の法事などで用事が重なり、少し長めの久しぶりの九州への旅となりました。前回、九州に行ったのは2011年3月で、やはりこのときも法事のためでした。
九州在住のモダン・クラシックのお客さまから以前より、長崎に良い古本屋さんがあるからぜひ行ってみてとの情報を何度か頂戴し、この度ようやく実現できる運びとなったのでした。
初日は、「長崎ランタンフェスティバル」の最終日だったので、夜の街は人出が多く賑やかでした。まずは本場の長崎ちゃんぽんを食べようとお店を探して歩きましたが、お祭のためにどのお店も混んでいて入れませんでした。その後タクシーに乗り込み、中心地から外れたところにある「四海樓」へ場所を移し、お店の窓から長崎の美しい夜景を見て、念願の本場長崎ちゃんぽんを食しました。

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店主が注文したAコープレストランのトルコライス。肝心の長崎ちゃんぽんの写真を撮り忘れました。

翌日、長崎古書組合の取材と入札会がありました。入札会終了後、会場近くにある「Aコープレストラン」で長崎古書組合の皆さまと昼食をとることになり、太郎舎さんの車に同乗させていただき、お店へ行きました。店名といい、店構えといい、わたし好みの懐かしい70年代っぽい雰囲気にワクワクしました。こういうドライブイン風のレストランって、一昔前はどこの街にもあったように思いますが、我が家の近くにもAコープレストランがあってくれたらしょっちゅう行けるのに・・・と思いました。九州地方だけのお店のようです。皆さんと違って、私だけここでも長崎ちゃんぽんを注文しましたが、いままで食べてきた長崎ちゃんぽんの中でダントツ一位の美味しさです。しかも、餃子とご飯も付いていて安かったです。

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この写真は、確か、鍛治屋町あたりにあった鰻屋さんで食べました。

さらにその翌日、「大正堂書店」さんの取材に伺う前に、近くにあった「珈琲 冨士男」という喫茶店に入りましたが、このお店の卵サンドイッチとコーヒーの美味しかったこと。。。あまりの美味しさに同じものを追加注文しようと思いましたが、お客さんが次から次へと入店されるので、すぐに会計を済ませました。これだけ美味しければお客さんが途切れないのも納得です。

今回は駆け足のような長崎の旅でしたが、いつかまた時間ができたら、次はゆっくりと長崎の旅を楽しみたいと店主と話しています。太郎舎さんには行きも帰りも長時間にわたり車に乗せていただき、また取材中、お宅でも子どものお昼寝をさせていただきまして、本当にお世話になりました。

日本古書通信 2015年6月号

『日本古書通信』の最新号が出ましたので告知を。 今回の私の連載「21世紀古書店の肖像」vol. 53は長崎の古書五合庵さんです。 神田の三省堂では店頭に並んでおります。あとAmazonでも購入できますし、古通さんで定期購読もオススメです。 どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

詳しくは本文を読んで頂くとして、そこで書けなかった小ネタを少々。
いろんな古書店さんを取材して、ある人が数ある仕事の中から「古本屋になる」のには大きく分けて三つのパターンがあるようです。

  1. 大学(or高校)卒業後フラフラして偶然古本屋でバイトしてそのまま古本屋になってしまう。
  2. 就職して堅気の生活を歩むも脱サラして古本屋になってしまう。
  3. 就職して堅気の仕事を勤め上げ、定年後「第二の人生」として古本屋になる。

私は①ですが、古書五合庵さんは③のパターン。そして私の知る限り、③のパターンの方は相当な古本好きが多い。
五合庵さんは東京で国税関係の仕事をされて、定年後故郷の長崎に戻り自宅の一角で古本屋を開業された。他で③のパターンで知っているのは豪徳寺のリブロニワースさん。三年ほど前に取材させて頂いたが、リブロニワースこと佐藤さんは長く大学で教職に就かれていて、インド経済史の分野ではかなり有名な方。佐藤さんは定年間際に辞められて、現在は夫婦でネット専門の古書店をされている。
お二人とも在職中は暇さえあれば古書店や即売店通いをした相当な古書マニア。趣味が高じて定年後古本屋になってしまうのだから、その情熱たるや凄まじい。実際に話を伺って、このお二方の古書収集家っぷり、あるいは書痴というべきか?古本集めに対するパッションには舌を巻いた記憶がある。

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自称「日本一狭い古書店」。自宅の一部の二坪の古書店「古書五合庵」。

さて五合庵さん。五合庵さんも国税関係という堅い仕事を勤めながら、土日の休みは古書店や即売店巡りに明け暮れていたそうだ。そして驚いたのは、そうして長年かけて集めた数万冊の本の、実に九十九パーセントは読まずに棚に飾っていたそうだ。私が驚いて「買った本を読まないんですか?」と聞くと、ちょっと機嫌を損ねたような表情で「読みません」と言う。私が曖昧に頷くと、畳み掛けるように「本を読んでたら本は集まりませんよ」と仰る。「とにかく古本を集めるのが好きなんです。」と五合庵さん。こういう方にこれまで会ったことがなかったが、五合庵さんのような方を本当の「古書収集家」と言うのだろうか、と心底驚いた。なんでも、毎年「万葉集」とか自分でテーマを決めて、それに関連する本を調べ上げ、いろんな古書店を回って本を集めたりしていたそうだ。しかも、買うだけで読まない。集めるために集める。「本は読むためのもの」と私は疑わずに信じていたが、五合庵さんクラスの古書収集家になると、本はただ「集めるためのもの」であって「読むもの」ではないらしい・・・。読まずに集めるってそんなに楽しいか?いや、自分も買った本の半分以上は読んでない・・・買ったことで満足して、棚に並べて時々眺めてはニヤニヤしてる自分がいる・・・あれ?もしかして自分も「本を集めること」が主で「読むこと」は従なのでは?・・「いずれ読む」はただの言い訳ではないか???

達観仕切った表情で「本は読みませんよ。ただ集めるんです。」と言い切る五合庵さんの静かな佇まいが今も瞼の裏に焼き付いている。何やら私は、古本道の深淵を覗いた気がしたのでした。

懐かしい 小石川〜千駄木〜本郷 周辺

先日、千駄木にある「古道具 Negla ネグラ」さんへ2年ぶりに行ってきました。
長く暮らしていた小石川を離れ、現在の調布市へ住まいを移してからあっという間に2年が経ち、久しぶりに訪れたお店には変わらずほしいものが盛りだくさんでした。見ているとキリがありませんが、丸い足長のわりと大きなテーブルと小引き出しを購入し、今日の午後に文京区から配達に来ていただきました。あの頃は、お店のある千駄木には自転車で行けたのに、いまはバスと電車を乗り継いで行かなくてはなりません。

古書モダン・クラシックをスタートさせるため、2006年の夏に物件探しをはじめました。最初は、店主の希望で以前暮らしたことのある本郷で、その後、千駄木の「観潮楼」跡の森鴎外記念館付近に良い物件があるとの不動産屋さんからの情報を得て、見に行きました。でもここは東京。あれこれ考えているうち、あっという間に他の方の入居が決まりました。ここだ、と思ったら即決しなくては都会での物件探しは大変なのだと痛感しました。結局、小石川にある古いマンションに入居が決まり、2013年まで過ごしました。マンションの同階に住む方々はみな親切で、近くにはチェーン店ではない手作りのおいしいお弁当屋さんと、気軽に入れてゆったりくつろげるカフェがあり、小石川に決めて良かったといまでも思っています。

トップの紫陽花の写真は、数年前に小石川で店主が撮影したものです。
文京区は坂が多いため、運動神経の鈍い私は、最初に電動自転車を買ってもらいました。この自転車で、毎週、神保町の市場へ古本を買い付けに行き、妊娠中も確か8ヶ月になった頃まで大きなお腹で本郷の坂を自転車を押しながら歩き、東大病院まで通いました。

小石川の播磨坂で桜の写真を撮っていたアラーキーさん。
小石川の播磨坂で桜の写真を撮っていたアラーキーさん。

このモノクロ写真は、近所の「播磨坂」の桜並木を歩いていて、写真家のアラーキーさんと遭遇したときに店主が撮影したものです。もう一枚は、臨月の大きなお腹を抱えた私と一緒に写真に入っていただけましたが、とても優しい方でした。もうしばらくゆっくり外食もできないだろうと、義父がこの近くにあるロシア料理店「ソーニヤ」に連れて行ってくれた帰りの出来事でした。ソーニヤは、いままで食べた中でいちばん美味しかったロシア料理のお店です。播磨坂の桜並木、小石川植物園、自転車でときどき行っていた不忍池周辺など、また時間ができたら訪れたいと思っています。